翻訳と日々

著作権切れの作品を翻訳したりしています。

クリスマスツリー / ミハイル・ゾーシチェンコ

今年でオイラは40才になるのさ、きみたち。つまり、ということは、40回もクリスマスツリーを見た事になる。すごい数だろ! まあ、生まれて最初の三年間は、たぶん、ツリーが何なのかわかっちゃいなかった。たぶん、ママが大事に育ててくれてたんだろうな。そ…

クリスマスの男の子 / フョードル・ソログープ

プストロスリョーフはやっとひとりきりになった。 なんという疲れだろう!丸一日人を迎えて話をした。熱い、刺激的な話題だ。仕事が忙しくせわしなく、かかりきりになってしまった。 かかりきりになったせいで、今ほんの少し休んだら、急にそのことも考えた…

老婆 / イワン・ブーニン

この愚かしい田舎の老婆は台所の板椅子に腰掛けて川のように涙を流して、泣いていた。 クリスマスの吹雪が、雪の積もった屋根や雪に埋もれた街路に旋風となって駆け回り、ぼんやりと青みがかり、薄暮時に満たされだすと、家の中は暗くなった。 向こうの大広…

掃除番のマロースじいさん / ダニイル・ハルムス

シューバ*1に、帽子、ちゃんちゃんこを着て掃除番がパイプをふかす。そして、ベンチに腰掛けて掃除番が雪に話す。「おまえは飛んでる、それとも溶けてる?何ひとつだってわかっちゃいない!はき掃除して、かき掃除して、ただわけもなく吹雪いてる!一体誰に…

クリスマスの夜に / アントン・チェーホフ

若い女で年は23といったところか、ひどく蒼白い顔で海岸に立ち、遠くを見つめていた。ビロードのブーツを履いたその小さな足もとから、下の海へ古びた狭い梯子が伸びており、ひどくぐらつく手すりがひとつ付いていた。 女が見つめる遠くで口を開いているのは…

秋の夕べはかくも悲しい / アレクサンドル・ブローク

秋の夕べはかくも悲しい。 目を瞑らせる消えゆく夕焼け…… 森は冷たいしじまに眠る、 草地の燻んだ金色の上で。 湖は凪いで彼方に霞む 沈思する時の影の中で、 そして全てが凍えている、朧な眠りの冷静の中で、 仄暗い悲しみに覆われて! 1898年 出典: ru.wi…

日暮れだ / セルゲイ・エセーニン

日暮れだ。露が イラクサの上できらめいている。 私は路肩に立ち止まり、 柳の木に身を寄せる。 月から大きな光が 我が家の屋根に差している。 どこかでサヨナキドリの歌が 遠くの方で聞こえている。 心地よくてあたたかい、 冬のペチカのそばのよう。 そし…

(夜、通り、街灯、薬局)/ アレクサンドル・ブローク

夜、通り、街灯、薬局、 ぼんやりとしたくすんだ明かり。 もう四半世紀生きてみるがいい、 全てが同じだ。逃げ道はない。 死んで——再びはじめから、 そして全てが繰り返す、かつてのように。 夜、運河の凍ったさざなみ、 薬局、通り、街灯。 1912年 出展: Н…

(白夜の五月は残酷だ!) / アレクサンドル・ブローク

白夜の五月は残酷だ! 永遠に門を叩きつける、出かけるのだと! 水色の煙が背後にあって、 未知が、破滅が眼前に! 女たちは狂気のまなこで、 永遠に踏み潰されたバラを胸に秘める! 目覚めろ!我を剣で突き刺してくれ 我が欲望から解放してくれ! 素晴らし…

劇のあとで / アントン・チェーホフ

ナーヂャ・ゼレーニナは、母と一緒に『エヴゲーニィ・オネーギン』が上演された劇場から帰り、自分の部屋に戻ると、すぐさまドレスを脱ぎ捨て、編んだ髪をほどき、スカート一枚、ブラウス一枚の姿で慌てて机に向かい、タチヤーナのような手紙を書こうとして…

(さようなら、友よ、さようなら) / セルゲイ・エセーニン

さようなら、友よ、さようなら。 大切な人よ、君は僕の胸の中にいる。 定められし別れは、 未来の出会いを約束している。 さようなら、友よ、握手も言葉も交わさずに、 寂しさ悲しみを眉にも見せず、–– 人生において死は新たなものではなく、 生きることもま…

(すすり泣く吹雪は) / セルゲイ・エセーニン

すすり泣く吹雪は、まるでロマのバイオリン。 愛しい乙女、意地悪な微笑み。 僕は怯えてはいないだろうか、その青い眼差しに? 多くのものが僕には必要で、多くのものが無用だ。 僕たちはあまりに遠く、そしてあまりに似ていない-- 君は若く、僕はすっかり…

クリスマス週間 (2) / アントン・チェーホフ

Ⅱ B. O. モゼリベイゼル医師の水治療院は新年も平日と変わらず開いていたが、ただ守衛のアンドレイ・フリサンフィチだけが真新しいモールのついた制服を着て、なにやらとりわけ長靴が輝きを放ち、やって来る人たち皆に新年を、それから幸多き一年になること…

クリスマス週間 (1) / アントン・チェーホフ

Ⅰ 「何を書いたらいいんだ?」エゴールはそう訊いて羽ペンを浸した。 ワシリーサは自分の娘と会わないでもう4年になる。娘のエフィーミヤは結婚式のあと夫とペテルブルグに行ってしまい、手紙を2通送ってきたあとは水に沈んだように、風の便りも噂話も聞か…

初雪 / イワン・ブーニン

冬の寒気が吹きつけた 野原に森に。 明るい深紅に燃えている 日没前の空。 夜には嵐が吹きすさび、 そして夜明けと共に村に、 池に、人気のない庭に 最初の雪が流れ込んだ。 そして今日、広大な 白いテーブルクロスの野の上で 別れを告げた、渡り遅れた 隊伍…

十月の朝焼け / イワン・ブーニン

夜が白み、月が沈み 川の彼方で赤い鎌となる。 陽を浴びた霧が草地の上で銀と輝き、 香蒲はそぼ濡れ靄がかり、 風が香蒲をざわめかす。 静寂の村。礼拝堂の灯火が 霞む、気怠く燃えながら。 凍えた庭のまたたく薄明に 草原から波のごとく注ぎ込む冷気…… ゆっ…

雨が降るまえに / ニコライ・ネクラーソフ

物憂い風が疾走し 雨雲が立ち止まる空のふち ひび割れたモミの木がうめき、 低く囁く暗い森。 小川には、斑点のようにまだらになって、 葉が葉の後を追いかけ飛び交う、 そして乾いた激流となって 注ぎ込んでくる冷たい風。 薄闇が辺り一面に広がると、 四方…

夏の夕べ / アレクサンドル・ブローク

日没の最後の光線が 横たわる収穫を終えたライ麦畑。 まどろむ薔薇色に抱かれた 刈り取られなかった畦の草。 微風もなく鳥も鳴かず、 木立のうえには——美しい月の円盤、 刈り取る女の歌も途絶える 夕べの静寂のただなかに。 不安も悲しみも忘れてしまえ、 走…

(夕べは去って) / イワン・ブーニン

夕べは去って、彼方は青み、 太陽は腰を下ろし、 ステップ*ばかりがあたり一面広がって 畑には穂が伸びている! 蜜が香り、花ひらき出す 白いそばの花…… 夕刻の鐘が村の方から 静かに聞こえてくる…… 遠くではカッコウが林のなかで ゆったりと鳴いている 幸福…

(湿原と沼地) / セルゲイ・エセーニン

湿原と沼地 空の青いショール。 針葉樹の金飾りを わっと鳴らしはじめる森 ちいちいと鳴くシジュウカラ 森の巻き毛のあいだにいて、 色濃いモミの木の夢のなか かしましく草を刈る人たち。 草原の中をぎいぎい鳴らし 延びて続く荷馬車の列—— 乾いた菩提樹の…

池のおもてを / イワン・ブーニン

明るい朝に池のおもてを すばやくツバメがぐるりと飛んで、 水面(みなも)に下りては、 わずかに水にさわる羽。 夏中、ツバメは高らかに歌い、 あたりは緑の深まる草地、 そして、鏡と見紛う池に、 岸辺が写り込んでいる。 鏡写しに、葦のあいだに、 岸から逆…

(大粒の雨が緑の森で) / イワン・ブーニン

大粒の雨が緑の森で ざわめいていた、伸びたカエデ、 森に咲く花たちの中を…… 聞こえるかい?よく通る歌が流れる、 気楽な声が森中に響く。 大粒の雨が緑の森で ざわめいていた、伸びたカエデのあわいで。 空の底もはっきりと見通せる。 誰の心にも浮かんで…

春の雨 / А. А. フェート

まだ明々と窓の外を、 雲の切れ間に陽が輝く、 そしてスズメらはその羽で、 砂浴びをして、震えている。 いっぽう空から地上まで、 揺らめき、動くとばりがあって、 まるで金の砂の中のように その奥に佇む森のはずれ 水滴がふたつガラスにぶつかり、 菩提樹…

白樺 / セルゲイ・エセーニン

真白い白樺 窓のそば かぶさる雪は 銀のよう。 ふかふかの枝に 雪が縁どり その手を覆うは 白いフリンジ。 白樺は立つ 眠りのしじまに、 雪片は燃える 金の火の中。 朝焼け、けだるく ひとまわりして、 枝にふりまく 新たな銀を。 初出:1913年 出典: feb-w…

新雪 / セルゲイ・エセーニン

進む。静かに。カチャカチャ鳴る音蹄が雪を踏むのに合わせる。 ただ灰色したカラスたちが 騒ぎはじめた草はらのうえ。 目に見えぬものに魔法をかけられ、 眠る森は夢物語の中。 まるで白いスカーフを 巻きつけたような松がいた。 曲がった腰は老婆のごとく、…

クリスマスの手紙 / イワン・イリイン

それは数年前のことだった。みながクリスマスを祝うために集い、ツリーやプレゼントを用意していた。だが私はただひとり異国の地にいて、家族もいなければ、友人もおらず、すべての人から見捨てられ、忘れ去られた気分だった。あたりは空疎で愛もなく、遠く…

現代のマルガリータ / アントン・チェーホフ

お前がマルガリータなら……お前の花婿のファウストはどこだ? あのねえ、あなた……わたしのパパは探偵で泥棒や詐欺師はたくさん見つけたけど、わたしに花婿を一人も見つけることができなかったの。だから決まってるでしょ、今は泥棒のほうが花婿よりもうんとた…

貧乏中の貧乏 / アントン・チェーホフ 

「出かけたいが、出かけるための服がない!」 初出:1884年2月25日 出典:ФЭБ: Чехов. Самая бедная бедность. — 1975 (текст) ひとことこれもおそらく本邦初訳。『月の天文学者』とおなじく、Подписи к рисункам(絵の説明文)に収録。現代日本にも通じる鉄板…

月面にて(レントーフスキーの夢幻劇『月への旅路』に入らなかった一場) / チェーホフ

月の天文学者1:見てごらんなさい、同僚くん、地上がなんと明々としている事か、あそこはグロドノの町があるところだ!あれは、ぜったい、大火事です。きっと、町全体が燃えているのだ。 月の天文学者2:あなた、何を言っているのです!ただどこかで娯楽がて…