2020-01-01から1年間の記事一覧
Ⅰ 「何を書いたらいいんだ?」エゴールはそう訊いて羽ペンを浸した。 ワシリーサは自分の娘と会わないでもう4年になる。娘のエフィーミヤは結婚式のあと夫とペテルブルグに行ってしまい、手紙を2通送ってきたあとは水に沈んだように、風の便りも噂話も聞か…
冬の寒気が吹きつけた 野原に森に。 明るい深紅に燃えている 日没前の空。 夜には嵐が吹きすさび、 そして夜明けと共に村に、 池に、人気のない庭に 最初の雪が流れ込んだ。 そして今日、広大な 白いテーブルクロスの野の上で 別れを告げた、渡り遅れた 隊伍…
夜が白み、月が沈み 川の彼方で赤い鎌となる。 陽を浴びた霧が草地の上で銀と輝き、 香蒲はそぼ濡れ靄がかり、 風が香蒲をざわめかす。 静寂の村。礼拝堂の灯火が 霞む、気怠く燃えながら。 凍えた庭のまたたく薄明に 草原から波のごとく注ぎ込む冷気…… ゆっ…
物憂い風が疾走し 雨雲が立ち止まる空のふち ひび割れたモミの木がうめき、 低く囁く暗い森。 小川には、斑点のようにまだらになって、 葉が葉の後を追いかけ飛び交う、 そして乾いた激流となって 注ぎ込んでくる冷たい風。 薄闇が辺り一面に広がると、 四方…
日没の最後の光線が 横たわる収穫を終えたライ麦畑。 まどろむ薔薇色に抱かれた 刈り取られなかった畦の草。 微風もなく鳥も鳴かず、 木立のうえには——美しい月の円盤、 刈り取る女の歌も途絶える 夕べの静寂のただなかに。 不安も悲しみも忘れてしまえ、 走…
夕べは去って、彼方は青み、 太陽は腰を下ろし、 ステップ*ばかりがあたり一面広がって 畑には穂が伸びている! 蜜が香り、花ひらき出す 白いそばの花…… 夕刻の鐘が村の方から 静かに聞こえてくる…… 遠くではカッコウが林のなかで ゆったりと鳴いている 幸福…
湿原と沼地 空の青いショール。 針葉樹の金飾りを わっと鳴らしはじめる森 ちいちいと鳴くシジュウカラ 森の巻き毛のあいだにいて、 色濃いモミの木の夢のなか かしましく草を刈る人たち。 草原の中をぎいぎい鳴らし 延びて続く荷馬車の列—— 乾いた菩提樹の…
明るい朝に池のおもてを すばやくツバメがぐるりと飛んで、 水面(みなも)に下りては、 わずかに水にさわる羽。 夏中、ツバメは高らかに歌い、 あたりは緑の深まる草地、 そして、鏡と見紛う池に、 岸辺が写り込んでいる。 鏡写しに、葦のあいだに、 岸から逆…
大粒の雨が緑の森で ざわめいていた、伸びたカエデ、 森に咲く花たちの中を…… 聞こえるかい?よく通る歌が流れる、 気楽な声が森中に響く。 大粒の雨が緑の森で ざわめいていた、伸びたカエデのあわいで。 空の底もはっきりと見通せる。 誰の心にも浮かんで…
まだ明々と窓の外を、 雲の切れ間に陽が輝く、 そしてスズメらはその羽で、 砂浴びをして、震えている。 いっぽう空から地上まで、 揺らめき、動くとばりがあって、 まるで金の砂の中のように その奥に佇む森のはずれ 水滴がふたつガラスにぶつかり、 菩提樹…
真白い白樺 窓のそば かぶさる雪は 銀のよう。 ふかふかの枝に 雪が縁どり その手を覆うは 白いフリンジ。 白樺は立つ 眠りのしじまに、 雪片は燃える 金の火の中。 朝焼け、けだるく ひとまわりして、 枝にふりまく 新たな銀を。 初出:1913年 出典: feb-w…
進む。静かに。カチャカチャ鳴る音蹄が雪を踏むのに合わせる。 ただ灰色したカラスたちが 騒ぎはじめた草はらのうえ。 目に見えぬものに魔法をかけられ、 眠る森は夢物語の中。 まるで白いスカーフを 巻きつけたような松がいた。 曲がった腰は老婆のごとく、…