翻訳と日々

著作権切れの作品を翻訳したりしています。

2020-01-01から1年間の記事一覧

クリスマス週間 (1) / アントン・チェーホフ

Ⅰ 「何を書いたらいいんだ?」エゴールはそう訊いて羽ペンを浸した。 ワシリーサは自分の娘と会わないでもう4年になる。娘のエフィーミヤは結婚式のあと夫とペテルブルグに行ってしまい、手紙を2通送ってきたあとは水に沈んだように、風の便りも噂話も聞か…

初雪 / イワン・ブーニン

冬の寒気が吹きつけた 野原に森に。 明るい深紅に燃えている 日没前の空。 夜には嵐が吹きすさび、 そして夜明けと共に村に、 池に、人気のない庭に 最初の雪が流れ込んだ。 そして今日、広大な 白いテーブルクロスの野の上で 別れを告げた、渡り遅れた 隊伍…

十月の朝焼け / イワン・ブーニン

夜が白み、月が沈み 川の彼方で赤い鎌となる。 陽を浴びた霧が草地の上で銀と輝き、 香蒲はそぼ濡れ靄がかり、 風が香蒲をざわめかす。 静寂の村。礼拝堂の灯火が 霞む、気怠く燃えながら。 凍えた庭のまたたく薄明に 草原から波のごとく注ぎ込む冷気…… ゆっ…

雨が降るまえに / ニコライ・ネクラーソフ

物憂い風が疾走し 雨雲が立ち止まる空のふち ひび割れたモミの木がうめき、 低く囁く暗い森。 小川には、斑点のようにまだらになって、 葉が葉の後を追いかけ飛び交う、 そして乾いた激流となって 注ぎ込んでくる冷たい風。 薄闇が辺り一面に広がると、 四方…

夏の夕べ / アレクサンドル・ブローク

日没の最後の光線が 横たわる収穫を終えたライ麦畑。 まどろむ薔薇色に抱かれた 刈り取られなかった畦の草。 微風もなく鳥も鳴かず、 木立のうえには——美しい月の円盤、 刈り取る女の歌も途絶える 夕べの静寂のただなかに。 不安も悲しみも忘れてしまえ、 走…

(夕べは去って) / イワン・ブーニン

夕べは去って、彼方は青み、 太陽は腰を下ろし、 ステップ*ばかりがあたり一面広がって 畑には穂が伸びている! 蜜が香り、花ひらき出す 白いそばの花…… 夕刻の鐘が村の方から 静かに聞こえてくる…… 遠くではカッコウが林のなかで ゆったりと鳴いている 幸福…

(湿原と沼地) / セルゲイ・エセーニン

湿原と沼地 空の青いショール。 針葉樹の金飾りを わっと鳴らしはじめる森 ちいちいと鳴くシジュウカラ 森の巻き毛のあいだにいて、 色濃いモミの木の夢のなか かしましく草を刈る人たち。 草原の中をぎいぎい鳴らし 延びて続く荷馬車の列—— 乾いた菩提樹の…

池のおもてを / イワン・ブーニン

明るい朝に池のおもてを すばやくツバメがぐるりと飛んで、 水面(みなも)に下りては、 わずかに水にさわる羽。 夏中、ツバメは高らかに歌い、 あたりは緑の深まる草地、 そして、鏡と見紛う池に、 岸辺が写り込んでいる。 鏡写しに、葦のあいだに、 岸から逆…

(大粒の雨が緑の森で) / イワン・ブーニン

大粒の雨が緑の森で ざわめいていた、伸びたカエデ、 森に咲く花たちの中を…… 聞こえるかい?よく通る歌が流れる、 気楽な声が森中に響く。 大粒の雨が緑の森で ざわめいていた、伸びたカエデのあわいで。 空の底もはっきりと見通せる。 誰の心にも浮かんで…

春の雨 / А. А. フェート

まだ明々と窓の外を、 雲の切れ間に陽が輝く、 そしてスズメらはその羽で、 砂浴びをして、震えている。 いっぽう空から地上まで、 揺らめき、動くとばりがあって、 まるで金の砂の中のように その奥に佇む森のはずれ 水滴がふたつガラスにぶつかり、 菩提樹…

白樺 / セルゲイ・エセーニン

真白い白樺 窓のそば かぶさる雪は 銀のよう。 ふかふかの枝に 雪が縁どり その手を覆うは 白いフリンジ。 白樺は立つ 眠りのしじまに、 雪片は燃える 金の火の中。 朝焼け、けだるく ひとまわりして、 枝にふりまく 新たな銀を。 初出:1913年 出典: feb-w…

新雪 / セルゲイ・エセーニン

進む。静かに。カチャカチャ鳴る音蹄が雪を踏むのに合わせる。 ただ灰色したカラスたちが 騒ぎはじめた草はらのうえ。 目に見えぬものに魔法をかけられ、 眠る森は夢物語の中。 まるで白いスカーフを 巻きつけたような松がいた。 曲がった腰は老婆のごとく、…