翻訳と日々

著作権切れの作品を翻訳したりしています。

2021-01-01から1年間の記事一覧

クリスマスの夜に / アントン・チェーホフ

若い女で年は23といったところか、ひどく蒼白い顔で海岸に立ち、遠くを見つめていた。ビロードのブーツを履いたその小さな足もとから、下の海へ古びた狭い梯子が伸びており、ひどくぐらつく手すりがひとつ付いていた。 女が見つめる遠くで口を開いているのは…

秋の夕べはかくも悲しい / アレクサンドル・ブローク

秋の夕べはかくも悲しい。 目を瞑らせる消えゆく夕焼け…… 森は冷たいしじまに眠る、 草地の燻んだ金色の上で。 湖は凪いで彼方に霞む 沈思する時の影の中で、 そして全てが凍えている、朧な眠りの冷静の中で、 仄暗い悲しみに覆われて! 1898年 出典: ru.wi…

日暮れだ / セルゲイ・エセーニン

日暮れだ。露が イラクサの上できらめいている。 私は路肩に立ち止まり、 柳の木に身を寄せる。 月から大きな光が 我が家の屋根に差している。 どこかでサヨナキドリの歌が 遠くの方で聞こえている。 心地よくてあたたかい、 冬のペチカのそばのよう。 そし…

(夜、通り、街灯、薬局)/ アレクサンドル・ブローク

夜、通り、街灯、薬局、 ぼんやりとしたくすんだ明かり。 もう四半世紀生きてみるがいい、 全てが同じだ。逃げ道はない。 死んで——再びはじめから、 そして全てが繰り返す、かつてのように。 夜、運河の凍ったさざなみ、 薬局、通り、街灯。 1912年 出展: Н…

(白夜の五月は残酷だ!) / アレクサンドル・ブローク

白夜の五月は残酷だ! 永遠に門を叩きつける、出かけるのだと! 水色の煙が背後にあって、 未知が、破滅が眼前に! 女たちは狂気のまなこで、 永遠に踏み潰されたバラを胸に秘める! 目覚めろ!我を剣で突き刺してくれ 我が欲望から解放してくれ! 素晴らし…

劇のあとで / アントン・チェーホフ

ナーヂャ・ゼレーニナは、母と一緒に『エヴゲーニィ・オネーギン』が上演された劇場から帰り、自分の部屋に戻ると、すぐさまドレスを脱ぎ捨て、編んだ髪をほどき、スカート一枚、ブラウス一枚の姿で慌てて机に向かい、タチヤーナのような手紙を書こうとして…

(さようなら、友よ、さようなら) / セルゲイ・エセーニン

さようなら、友よ、さようなら。 大切な人よ、君は僕の胸の中にいる。 定められし別れは、 未来の出会いを約束している。 さようなら、友よ、握手も言葉も交わさずに、 寂しさ悲しみを眉にも見せず、–– 人生において死は新たなものではなく、 生きることもま…

(すすり泣く吹雪は) / セルゲイ・エセーニン

すすり泣く吹雪は、まるでロマのバイオリン。 愛しい乙女、意地悪な微笑み。 僕は怯えてはいないだろうか、その青い眼差しに? 多くのものが僕には必要で、多くのものが無用だ。 僕たちはあまりに遠く、そしてあまりに似ていない-- 君は若く、僕はすっかり…

クリスマス週間 (2) / アントン・チェーホフ

Ⅱ B. O. モゼリベイゼル医師の水治療院は新年も平日と変わらず開いていたが、ただ守衛のアンドレイ・フリサンフィチだけが真新しいモールのついた制服を着て、なにやらとりわけ長靴が輝きを放ち、やって来る人たち皆に新年を、それから幸多き一年になること…