翻訳と日々

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クリスマスツリー / ミハイル・ゾーシチェンコ

 

 今年でオイラは40才になるのさ、きみたち。つまり、ということは、40回もクリスマスツリーを見た事になる。すごい数だろ!
 まあ、生まれて最初の三年間は、たぶん、ツリーが何なのかわかっちゃいなかった。たぶん、ママが大事に育ててくれてたんだろうな。そんで、きっと4才の頃には飾り付けされた木をぼんやり見てたんだろう。
 ところがね、子供たちよ、オイラが5才になってみたら、ツリーが一体なんなのか、もうはっきりとわかったよ。
 そんでオイラはこの楽しい祭日を心待ちにしてたんだ。それに扉のちっちゃな隙間から母さんがツリーを飾るのを覗き見してたのさ。
 オイラの姉ちゃんのリョーリャはそん時7才だった。姉ちゃんはとんでもなく元気いっぱいな女の子だった。
 ある時オイラにこう言ってきた。
 「ミーニカ、ママは台所にいったよ。ツリーのある部屋に行って、どうなってるか見てみよう!」
 オイラと姉ちゃんのリョーリャは部屋に入った。目に飛び込んできたのはとっても綺麗なツリーだ。ツリーの下にはプレゼントがある。ツリーにはいろんな色のビーズの飾りや旗に電球、金色の木の実にパスチラ、それにクリミア産のりんごが載っていた。
 姉ちゃんのリョーリャが言った。
 「プレゼントは見ないわ。でもそれよりパスチラひとつ食べたいわね」
 それでツリーに近づくと、あっという間に糸に吊ってあるパスチラをひとつ平らげてしまった。
 オイラは言った。
 「リョーリャ、キミがパスチラを食べるんなら、ボクもなんか食べてやる」
 オイラもツリーに近寄ってほんの一口リンゴをかじった。
 リョーリャが言う。
 「ミーニカ、あんたがリンゴをかじるなら、あたしはもう一個パスチラ食べておまけにこのお菓子ももらっちゃうわ」
 リョーリャは背がとっても高い、のっぽな女の子だった。だから高いところにも手が届くんだ。
 彼女はつま先立ちになっておっきな口でパスチラをもう一個食べ出した。
 一方オイラはびっくりするくらい背が低かった。だから低いところにぶら下がってるリンゴひとつしか届かなかった。
 オイラは言った。
 「リョーリャ、キミがもひとつパスチラ食うなら、オイラだってまたこのリンゴをかじってやる」
 そんでオイラはもう一度そのリンゴをつかんで、もう一度ちょっとだけかじった。
 リョーリャは言った。
 「あんたがもう一口リンゴをかじるらな、あたしもう遠慮しないわ、パスチラ3個目食べてそのうえ記念にクラッカーとクルミも取っちゃうんだから」 
その時オイラはもうちょっとで泣き出すところだった。だって彼女は何でも手が届いたけど、オイラは届かなかったんだから。
 オイラは言った。
 「ならオイラだってツリーの横にイスを置いて、リンゴじゃないものをとってやるぞ」
 それでオイラはやせっぽっちの指でイスをツリーのところまで引っ張っていった。けれどイスはオイラの方に倒れてきた。オイラはイスを立たせたかった。けどまた倒れてきた。それもまっすぐプレゼントの方に。
 リョーリャが言った。
 「ミーニカ、あんた、もしかして、お人形さんを壊しちゃったんじゃないの。やっぱりそうだわ。あんたがお人形さんの陶器の手を叩き割っちゃったのよ」
 するとママの足音が響いてきた、それでオイラとリョーリャは違う部屋に逃げた。
 リョーリャが言った。
 「こうなったら、ミーニカ、母さんがあんたにお仕置きしないって保証はないわ」
 オイラは大声で泣き出したかったけど、その時お客さんたちがやってきた。たくさんの子供たちとその親だ。
 そしてその時オイラたちのママはツリーの灯りを全部ともして、ドアを開けて言った。
 「みなさんどうぞお入り」
 そして子供たちがみんなツリーのある部屋に入ってきた。
 オイラたちのママが言った。
 「今から子供たち一人ずつ私のところにおいでなさい、みんなにおもちゃとごちそうをあげるわよ」
 そしたら子供たちがママの方へ寄っていった。そしてママは一人ずつおもちゃをあげた。そのあとツリーからリンゴ、パスチラ、お菓子を取って、それも子供たちに渡した。
 そしたら子供たちはみんな大喜びした。それからママはオイラがかじったリンゴを手にとって、言った。
 「リョーリャとミーニカ、こっちへ来なさい。二人のどっちがこのリンゴをかじったの?」
 リョーリャが言った。
 「ミーニカのしわざよ」
 オイラはリョーリャのおさげ髪を引っ張って言った。
 「リョーリャがオイラにそうしろって言ったんだ」
 ママは言った。
 「リョーリャは壁を向いて隅に立っていなさい。おまえにはゼンマイ式の機関車をあげようと思ってたのに。もうこの機関車は他の子にあげちゃうわ、このかじられたリンゴをあげるはずだった子にね」
 そして機関車を手に取ると4才の男の子にあげてしまった。その子はすぐさま機関車で遊びだした。
 そんでオイラはその子に腹が立ったからおもちゃでその子の手を叩いた。そしたらその子が絶望したように泣きじゃくってるもんだから、その子のママがその子を抱き上げてこう言ってきた。
 「わたしは金輪際この子を連れてお宅にお邪魔しませんわ」
 オイラが言った。
 「帰っていいよ、そしたら機関車は僕のもんだもん」
 するとその子のママはオイラの言葉に驚いてこう言った。
 「きっと、お宅のお子さんは強盗になるんでしょうね」
 そしたらオイラのママがオイラを抱き上げてその子のママに言った。
 「そんなことをうちの子に言う権利などありませんわ。そのひ弱な子を連れて出ていって金輪際うちにはいらっしゃらないでちょうだい」
 するとその子のママが言った。
 「そうさせていただくわ。あなたといるのは--イラクサの中に座ってるようなものだもの」
 そうするともう一人、別のママが言った。
 「私も帰るわ。うちの娘に相応しくありませんもの、手の壊れたお人形で殴りつけてくるなんて」
 すると姉ちゃんのリョーリャが叫んだ。
 「あんたのよわっちい子を連れて帰ったらいいじゃない。そしたら手が割れたお人形は私のものになるもの」
 そんでオイラはママの腕の中に座って、こう叫んだ。
 「だいたいみんな帰ったらいいんだ、そしたらおもちゃは全部オイラたちのものだもん」
 そしたらお客さんがみんな帰りだした。
 するとママは自分たちだけが残ったことにびっくりした。
 けれど突然部屋にパパが入ってきた。
 パパは言った。
 「そんな教育じゃ子供たちを不幸にしてしまうぞ。私はこの子達がお客さんに手をあげたり、ケンカしたり、追い出したりするようになってほしくない。この世で生きづらくなって、孤独に死んでしまうことになるからね」
 そしてパパはツリーに近寄って灯りを全部消した。そうしてこう言った。
 「すぐに寝なさい。明日はおもちゃを全部お客さんたちにあげてくる」
 そんで、ほら、きみたち、この時から35年経ってしまったが、今でもこの時のツリーをよく覚えてるんだ。
 そんでこの35年間、オイラはな、子供たちよ、もう一度たりともひとのリンゴを食べちゃいないし一度たりとも自分より弱い子を殴っちゃいない。それで今じゃお医者さんも言ってくれるんだ、だからオイラは人より陽気で心がやさしいんだってね。



・ひとこと
20世紀初頭の作家ゾーシチェンコの子供向け短編集『リョーリャとミーニカ』から。
ソ連時代、体制からの批判を避けるために多くの作家が児童文学に転向したりしていました。
これもそういった時代の作品。
しかし、ゾーシチェンコはその後ジダーノフ批判により、反体制のレッテルが貼られることとなりました。他には詩人のアンナ・アフマートヴァ、作曲家のプロコフィエフらも批判の対象となっていました。